「松本氏性加害疑惑」は「ロス疑惑」と同じ道を辿るのか?【窪田順生】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「松本氏性加害疑惑」は「ロス疑惑」と同じ道を辿るのか?【窪田順生】

『ありがとう、松ちゃん』より

▲三浦和義「最後の一服」 1985年撮影

週刊文春の報道に端を発した性加害疑惑によって、突如として表舞台から姿を消した「松ちゃん」こと松本人志。見逃してはならないのは、テレビの腐敗だ。「ヒーローとして持ち上げて、数字を稼ぎ、『週刊文春』が『あいつはクロだ』と断定をすれば、今度はそっちに乗っかって、『堕ちたヒーロー』と断定して叩いて数字を稼ぐ。テレビの人権侵害は、昭和から何も進歩していない」と断罪するのは、ジャーナリストの窪田順生氏。そう、テレビには「ロス疑惑」という前科があるのだ。松本人志は三浦和義と同じ道を辿ってしまうのか?『ありがとう、松ちゃん』(KKベストセラーズ)より窪田氏の寄稿を抜粋して配信する。


■ロンドンブーツ1号2号の田村淳の指摘

 報道対策アドバイザーという仕事をしている関係で、昨年末から続く松本人志氏の性加害疑惑報道について、「なぜマスコミは事実もよくわからない疑惑の段階なのに松本さんが悪いと断定するような報道をするのですか?」というような質問をよく頂戴する。

 実はこれは日本のマスメディアが何十年も克服できない「メディアスクラム」(集団的過熱報道)という問題が関係している。

 ご存知のようにまず「週刊文春」が「松本さんはクロ」ということを断定的に報じた。マスメディアが機能している国ならば、この報道を各社で検証をする。話に怪しい部分はないのか、一方的な情報に基づいていないかなどをジャーナリストたちがチェックするのだ。しかし、日本のマスメディアはそれを一切やることなく「文春によりますと」と文春記事をコピペしたような報道しかしない。結果、世の中には「松本さんはクロ」という情報があふれるというメディアスクラムが発生、文春が断定した「松本さんはクロ」が既成事実化してしまうというわけだ。  

 日本の報道被害は、ほとんどこのパターンでつくられてきた。

■なぜマスメディアは「文春コピペ報道」に流れるのか?

 さて、そこで気になるのは、なぜマスメディアは「文春コピペ報道」に流れるのかということだが、少し前に、それを引き起こしている組織的構造の欠陥が非常によくわかる出来事があった。

 3月24日に放映されたフジテレビ系「ワイドナショー」だ。この中で、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが、マスメディアの「性加害報道」が、公平性に欠けるのではないかと問題提起をした。松本さんの飲み会に参加をしたセクシー女優の霜月るなさんや、飲み会のセッティングをしたことがあるお笑い芸人らの擁護を取り上げることなく、「文春報道」だけを繰り返し紹介しているのは、さすがにおかしいのではないかというのだ。

 至極、真っ当な指摘であり、ネットやSNSでも多くの人々が同様の問題を指摘していたが、これに対して「テレビ」のスタンスを代弁する局アナやフリーアナウンサーらからは、耳を疑うような「反論」が飛び出した。

「情報を選んでいるというよりかは、たとえば、報道番組で、国際ニュースを扱ったりするときも、『ブルームバーグ通信によりますと』とか『ロイター通信によりますと』とよく出てくる。自分たちが取材に行っているわけではなく、その媒体が取材に行ったものをニュースとして購入したりしている。それと同じようにワイドショーも作られている。その何かの媒体にキチンと取材をして出ているものを、裏が取れていると扱っている」  

 これを聞いて、開いた口が塞がらなかった。

 文藝春秋という出版社が発行する、ただの週刊誌と、世界各国にネットワークを持つ世界的通信社を同列に見る感覚も驚きだが、何よりも筆者が衝撃を受けたのは、松本人志氏の性加害疑惑について、「自分たちで独自取材をするという意識がゼロ」ということを、ここまで堂々と胸を張っていってのけたことである。

 国際ニュースは、日本のマスメディアが自前で取材をするのは難しい。海外支局も人員が限られているからだ。だから信頼のおけるロイターやブルームバーグから記事を買って、「ロイターによりますと」と断って報じる。当たり前だ。

 しかし、松本氏の性加害問題は、これとまったく違う。告発している被害者女性たちは文春が囲っているので取材できないとしても、霜月るなさんやお笑い芸人など、いくらでもアクセスできる。テレビ業界には、松本氏と酒を飲んだことのある人など山ほどいるはずだ。つまり、新聞の社会部だろうが、ワイドショーだろうが、自分たちで調査報道ができるものだ。

 それをまったくやらずに「文春によりますと」を壊れたラジオのように繰り返しているのが「偏向報道」だと指摘をしているのに、返ってきたのは「文春記事は、ロイターと同じく信用できるので使い倒しているだけなので、偏っていません」――。この報道機関とは思えないほど、当事者意識のかけた発言は、「マスゴミ」のそしりを受けても仕方がない。

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窪田 順生

くぼた まさき

ノンフィクション作家

一九七四年生まれ。テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集
者を経て現在はノンフィクション作家として週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。『潜入 旧統一教会 「解散命令請求」 取材NG最深部の全貌』が発売中。

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